2012年のOMPオークション・レビューを書くのを忘れていた.昨年は絵画蒐集どころではなくて,生涯設計の転換期となる年であった.勿論,それは良い意味で自身の存在意義の記憶に繋がることであるのだが,初めて一点の絵画も購入しなかった年となった.かつてないほどの円高であったことを思えば残念なことであるが,より安価な地図関係の蒐集に軸足が移っていた感もある.
S社のサイトはまた最近模様替えされて,お気に入りに登録していたロットのリンクが切れてしまっている.
NYでの1月のセールN08825では,レンブラントの銅版画「書斎の聖ヒエロニムス」の銅版原版が売りに出されていた.その数年前にTEFAFで見かけて以来,ベルギーの某画廊と購入交渉をしていたのだが,金額も予算ぎりぎりで,結局,後世の手がかなり入っていて版の状態が芳しくないことから,見送っていた.今回も結局不落札で終わっている.同じセールでヘルデルの「説教するキリスト」,またラストマンの「よきサマリア人」やエークハウトの作品が出ていたが,いずれも見積り額は高めで不落札だったようだ.
C社では1月のセールで,どちらも高額すぎて購入対象ではないが,ダウの佳品「クラビコードを弾く若い女」は保存状態もよく評価額$1-200万に対して,P込$333万ほどで落札されていた.
また,ヤン・ブリューゲル?世による「アダムとイヴの物語」連作6点は,蒐集対象としては良いが質が今ひとつで,見積もり$70-90万に対し下限程度で落札.やや関心を持った作品として,シモン・デ・フォッスの「無知と中傷から絵画を守るミネルバとキュリー」は評価上限のP込$50000で落札.
春以降は天球儀や地図関係のセールのほうに関心が向いていて,お気に入りに残した古典絵画が殆どなかった.
10月のD社のセールでは,1994年に日本でも例えば東京ステーションギャラリーなどで展示されたフリンクの「狩人に扮した若い男の肖像」が注目に値する.ズモウスキ教授絶賛のフリンク後期(1954年頃)の作品であるものの,写真で見る限りではあまり魅かれなかった.評価額EUR12-15万に対しP込でEUR14.7万で落札されていた.このセールではほかに,ヤン・ブリューゲル?世の「キリストの誘惑」は状態が気になったがEUR15万ほどで落札され,ヤン・コックの「ロトとその娘たち」はEUR3万,マイナーだがスプレーウェンの「学者のいるヴァニタス画」もEUR1.4万とリーズナブルな金額で落札されていた.
C社12月のセールでは,パティニール工房とされる「聖クリストフォロス」にかなり関心があったがGBP2-3万に対し,P込GBP3.7万で落札された.
球儀や地図,天文分野で眼に留まった=参加はしたが変えなかったもの,を少し上げておく.
左:フランスはNicholas Bion (1652-1733)の天球儀.12インチ(30cm)とサイズもよく,1700年頃つまりぎりぎり17世紀の製作?,台もオリジナルで図柄もよく,評価額もGBP5-8000とリーズナブル,ただし,どうも球が木や張子ではなく,近年別のものに張りなおされているとのことで,やや躊躇した.結局,落札額P込GBP20000で割り込めなかった.
中:P.MelaのDe orbis situ. Paris : [Christian Wechel], juin 1530.Pierre Berès à livre ouvert というC社パリの12月のセール.
有名な(知る人ぞ知るという意味)1471年製作のダブル・ハート型世界図の後版が掲載されている.それ故,初版でないためか控えめすぎる評価額EUR2-3000に対し落札額はP込EUR21250に跳ね上がった.見送ったが,そのくらいが妥当かもしれない.
右:Johannes KEPLERの「ルドルフ星表」 Tabulae Rudolphinae, quibus astronomicae scientiae, temporum longinquitate collapsae restauratio continentur. Ulm: Jonas Saur, 1627.C社ロンドンの12月のセール.
師ティコ・ブラーエから託された長年の観測結果の結実であり,偉大なケプラーの惑星運行の理論の基となったデータの初版初刷である.科学史上の価値が大きいが,表紙絵はTemple of Urania の銅版画で,付いているものが多くはないし,これほど状態の良いのは稀らしい.
GBP12-18,000に対しP込GBP18,750で,この前後に18世紀の地球儀を購入したため,見送りとなった.
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2012年のオークションレビュー
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